煌めきと重厚感のあるサウンドの間でポップに輝く可愛さ──PiKi「Tell Me Tell Me ☆」
皆さんこんにちは。音文学管理人の池ちゃんです。私が住んでいるところ天気があまり良くないですが、しっかり今日も楽曲を紹介していければと思います。今回ご紹介するのはリリースされて間もない楽曲となります。タイトルにもありますがPiKiさんで「Tell Me Tell Me ☆」という楽曲になります。個人的に注目した理由として、この楽曲のプロデューサーが中田ヤスタカさんであるためです。私が個人的に大好きなので紹介させていただきます。
ちなみに前回の記事では楽曲発表から40年の時を経てもなお聴かれ続ける名曲、杏里さんで「悲しみがとまらない」を紹介しております。気になる方は併せて読んでいただければと思います。記事はこちらから。
目次
はじめに:「かわいい」の向こう側へ
PiKiさんの最新シングルである「Tell Me Tell Me ☆」は、パッと聴いた瞬間に可愛さのあるポップソングではありますが、バックミュージックはかなり重厚感のあるレトロ・エレクトロサウンドになっています。耳に残るメロディと80年代のビンテージシンセを彷彿とさせる遊び心たっぷりのサウンド、そしてアイドルという枠を超えたキュートさと切なさが入り混じるリリック。これら全てを総合してみると「ただのアイドルソング」に収まらないかっこよさと深みを生んでいるのではないでしょうか。
このライナーノーツでは、楽曲の構成やサウンド面の分析に重きをおき、その後歌詞にこめられた遊び心について深堀りを行います。更にはPiKiという存在が日本の音楽シーンに提示している”新しい形”についても深堀りしていきます。
楽曲構成とサウンドの魔法
キラキラの中にある「計算された混沌」
「Tell Me Tell Me ☆」のイントロはリバーブの効いたシンセのリフから始まります。面白い点としては、ピッチに揺れがある事です。これは恐らく昔のアナログシンセサイザーをリスペクトしての事だと思います。そういった趣向を凝らしているため、まるでゲームのスタート画面のような、少しだけ懐かしい気持ちにさせてくれます。ですが、音作りは決して古臭い感じではなく現代的。リスナーはイントロのシンセサイザーの音で一気にPiKiの世界に引き込まれます。
さらに、イントロのシンセメロディーは後のサビのメロディーと合致しています。恐らく「サビのメロディーはこうですよ」という前置きだと思われます。この方法によってサビが始まると何となく”既視感”を覚える算段になっているのだと思います。そういった意味では計算しつくされた楽曲構成になっていると言えるのではないでしょうか。
Aメロではサビや前奏ほどの派手さがないドラムが抑え気味に入っていますが、一方でメロディラインが跳ねられるように展開されています。メロディが跳ねているように聞こえるもう一つの要因としてベースラインの音作りにあると思います。ベースはプラック系のシンセサイザーで音を伸ばすのではなく、”刻む”ことによって曲にグルーヴを生み出しています。
また、個人的に主観にはなりますが声のトーンにも微妙なニュアンスがあり、楽しいようでいてどこか寂しさを含んだような声色がとても曲にマッチしていると思います。サウンドデザインがレトロで哀愁漂う設計になっているため、歌い方もレトロ指向で作られているのかなと思いました。
サビに入ると現代的なサウンドの幕開けとなります。世界が一気に開かれるような、壮大な気分になります。エレクトロ・ポップ的ニュアンスの強いキックと、前述した刻むプラック系のベースがドライブを生んで、ユニゾンボーカルが「Tell Me!」というフレーズに命を吹き込みます。リズムは基本的に4つ打ちでコード進行もメジャーキーとなっているので明快なサウンドですが、ところどころに入る変わり種の類のコード進行が入るため単なる”明るい曲”とは片付けられない。といった構造を持っています。
音像の”奥行”と”映像的”な演出
特筆すべき点は、Bメロで入って来るクラップ音の存在感です。この不規則なクラップが入る事によって4つ打ちミュージックの枠を超え、リスナーの飽きがこないように音楽的に設計されていると考えられます。また、サビ前での大胆な空白。「3・2・1」というカウントがある事によって「これからサビが来るんだな」というドキドキ感とワクワク感を増進させる事に成功していると思います。
上記の趣向によってこれらはまるで、楽曲が一つの短編アニメーションでもあるかのように、場面展開や感情の変化を「音」で可視化する役割を果たしているのではないでしょうか。恐らく将来的にライブをするといった際の演出も視野に入れているかのような大胆な設計だと思います。これら中田ヤスタカさんを始めとする制作陣の細かな美意識、プロ意識を感じさせられます。
歌詞の中にある”わたし”の揺らぎ
表層のキャッチーさと裏腹の問い
本楽曲では中田ヤスタカさんの得意分野とも言える「恋愛」がテーマになっているかと思います。ですが、この楽曲は恋愛というジャンルに括るのは難しく、そこに登場人物のアイデンティティの形成がなされていくような雰囲気があります。例えば以下のような出だしの歌詞です。
つくり笑いをやめて
自分らしく生きると決めたの
もう使わないと決めた魔法が弾けちゃうの
引用元:Uta-Net(こちら)
この楽曲の第一印象を決めるともいえるファーストインプレッションで、このような歌詞を中田ヤスタカさんは書かれています。ここでは、恋愛というニュアンスよりも自分自身のアイデンティティを全面的に出していると思われます。「強い女性」としての決意とも受け取れます。
その後、サビでは下記のようなフレーズがリスナーたちを待っています。
Tell me Tell me おしえて 未来見たいの
引用元:Uta-Net(こちら)
ここで描かれているPiKiというユニットは未来を見ている事が分かります。この未来志向がこの楽曲のサビであり、未来を見据えた新たな恋の物語といった雰囲気も感じ取れるかなと思います。これからどんな事が起こるのか、ワクワクするような楽曲構造になっていると考えられます。
PiKiという存在の可能性
「作られた偶像」から「等身大の声」へ
PiKiは一貫して”かわいい”を武器にしていますが、サウンドデザインの面や歌詞の面からも分かるようにそれを全てのアイデンティティにしていないアーティストだと思います。「Tell Me Tell Me ☆」のような楽曲を聴くと、その前へ未来へ向かっていく力を強く感じられます。
また、恋愛に関する部分についてもポップに描かれています。特に下記のような歌詞はとてもポップでキュートです。
占いで出たハート試して
瞬きするたび恋に落ちるの
引用元:Uta-Net(こちら)
こういった歌詞のアプローチはアイドルとして必要不可欠な要素を含んでいると考えられます。また、今恋に落ちているリスナーに対しては、PiKiは単なる”アイドル”ではなく、感情を代理してくれるメディアとして機能しているとも言えます。
ポップであることの新たな定義
本楽曲はあくまでポップスの枠をはみ出てはいません。ですが「ポップ=軽い音楽」という通念をPiKiは「Tell Me Tell Me ☆」で静かにひっくり返しているようにも思えます。それは、中田ヤスタカさんの重厚なサウンドや重みのある感情が潜んでいるからだと思います。だけどリスナーは気軽に聴く事ができる。この絶妙な塩梅がこの楽曲には計算されています。
終わりに:PiKiが問い続ける音楽の力
深読みするのであれば「Tell Me Tell Me ☆」は、聴けば聴くほど”今の私たちに”「かわいい」とは何かという問いを投げかける楽曲だと思います。アイデンティティや恋愛における不安、そして希望。どれもが混ざりあって、しかしながらあくまで「ポップ」という衣装をまといながら、リスナーの心に少しずつ静かに届いていきます。
かわいさという世界観の中での複雑さ、ファンタジー的なサウンドメイクではありますが、現実のあわいを軽やかに駆け抜けるPiKiの音楽は、これからのポップ・ミュージックの新しい在り方を示しているとも考えられます。新しさが強く出ている理由としても中田ヤスタカさんのサウンドメイクも影響していると思います。「Tell Me Tell Me ☆」はそんな彼女たちの始まったばかりの現在地を鮮やかに刻んだ1曲だと思います。

音文学管理人。TSUJIMOTO FAMILY GROUP主宰。トラックメイカーでもありながら、音文学にて文学的に音楽を分析している。年間数万分を音楽鑑賞に費やし、生粋の音楽好きである。「私が愛した人は秘密に満ちていました。」大反響を呼び、TSUJIMOTO FAMILY GROUPの前身団体とも言えるスタジオ辻本を旗揚げするまでに至っている。現在新作「突き抜ける群青に泣け。」の制作を開始している。




