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別れを惜しむ名曲中の名曲──パスピエ「最終電車」について徹底解説します

2025.7.31

#パスピエ#ライナーノーツ#レコメンド#曲紹介#最終電車

皆さんおはようございます。音文学管理人の池ちゃんです。今朝は若干涼しく、朝からジムへ行って2kmほど走ってきました。前回、osageの「ウーロンハイと春に」を紹介しましたが、どことなく切ない曲を過去聞いたものの中から探したところ、パスピエの「最終電車」を思い出して、今回は解説していきたいと思います。

前回ご紹介したosageの「ウーロンハイと春に」の記事はこちらからご覧いただけます。併せて読んでいただければと思います。

深夜のプラットフォームに宿る、ノスタルジアと予感

パスピエの楽曲「最終電車」は、時間の狭間に揺らぐ感情を見事に描き出した名曲です。どこか懐かしく、それでいて少しだけ未来的。そんな矛盾を抱えたこの楽曲は、夜の駅を舞台に、心の内に潜む想いと再生の予感をそっと浮かび上がらせます。

バンド特有の浮遊感のあるサウンドと、成田ハネダさんの洗練された楽曲構成、そして大胡田なつきさんの独特の言語感覚が見事に融合したこの楽曲は、パスピエというバンドの音楽的個性を象徴する一曲だと言えると思います。

音のレイヤーが描く都市の風景

エレクトロとバンドサウンドの共存

「最終電車」は、パスピエが得意とするエレクトロとバンドアンサンブルの融合が、繊細かつ有機的に表現されています。エレクトリックピアノの煌めきが街灯や信号機の光を思わせ、ギターのベースのミニマルな絡みが、夜の都市の静けさと秩序を表現しているようです。

ドラムはタイトながらも余白を感じさせるビートで、列車のリズムを模しているかのような一定の揺らぎを持っていると思います。電車が線路の上を一定の速さで走るように、リスナーの感情を一定の速度で運んでいくような感覚がこの曲にはあります。

ハモンドオルガンが奏でる空間の演出

特筆すべきは、エレクトリックピアノとハモンドオルガンという音色選びと配置です。広がりのハモンドオルガンの音が、夜のホームに漂う空気や、終電後の静まり返った街の雰囲気を想起させます。2番のAメロでメロディの芯を担うエレクトリックピアノのリード音はどこか懐かしさを帯びており、古びたポストやベンチに残された温もりのように、聴く人の記憶を刺激します。

このようなサウンドのレイヤーが、ただの情景描写にとどまらず、感情や時間の流れすらも表現している点に、パスピエの音楽的な深みを感じずにはいられません。

歌詞に滲む「あたし」と「キミ」の距離

不在の存在に語りかけるように

「最終電車」の歌詞は、極めて詩的でありながら、どこか私たちの生活に身近な言葉で綴られています。大胡田なつきさんの紡ぐ言葉には、常に独特の比喩と跳躍がありますが、この曲では特に、”時間”と”記憶”という抽象的なテーマが、具体的な風景の中で丁寧に描かれていると思います。

例えば、最終電車というモチーフ自体が、「後少しで日付が変わる」というタイミングと、「もう戻れない」という感覚の両方を象徴しています。過ぎ去る時間と向き合いながら、自分の中にある”キミ”の輪郭を確かめようとするような、そんな語りかけのように響きます。

会えなかった夜の、その後の物語

歌詞全体に漂うのは「すれ違い」と「余韻」です。直接的に”さよなら”とは言っていないのに、その余白にある想いが、逆に言葉以上にリアルに伝わってきます。

最終電車に飛び乗る キミの背中がキライよ
黄色い線の内側 境界線なら取っ払って
引用元:Uta-Net(こちら

そんな想像と後悔が交錯する瞬間を、彼女は語りすぎることなく、むしろ言葉を削ることで表現しています。その抑圧された表現こそが、リスナーの中に豊かなイメージを呼び起こし、何度も聴き返したくなる魅力を生み出していると考えられます。

パスピエの音楽がもたらす「都市の詩」

都会的でありながら、どこか温かい

「最終電車」が特別なのは、そのサウンドも歌詞も、すべてが都市生活の「すきま」に宿る感情を描いている点です。忙しく過ぎ去っていく日々の中で、ふと立ち止まったときに感じる切なさや、ほんのりとした温かさ。それは、誰しもが一度は経験したことのある感情ではないでしょうか。

パスピエの音楽は、そうした一瞬の情緒を音に閉じ込めるのが本当に上手です。「最終電車」はその中でもとりわけ完成度が高く、音・詞・構成の全てが都市に生きる私たちの「生活のリリック」として機能しています。

「音楽」という時間旅行

また、「最終電車」は、聴いているうちに、自分自身の過去や誰かとの記憶を追体験するような感覚も与えてくれます。メロディの儚さと、言葉の余韻が、まるで時間を遡る列車のように、私たちを静かに運んでくれるのです。

おわりに:最終電車が向かう先にあるもの

「最終電車」というモチーフが象徴するのは、「終わり」だけではありません。「次の日への始まり」「踏み出すための準備」「やり直しの余地」──それら全てが、この一曲に込められているように思います。

パスピエは、音楽という表現手段を通じて、私たちの日常に寄り添い、時にその風景に意味を与えてくれる存在です。「最終電車」は、そんな彼らの代表的な仕事のひとつとして、多くの人の心を感傷的にし、しかし確かに響き続けると思います。

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