青春とアナログの温かさが交わる名曲──パソコン音楽クラブ KICK & GO feat.林青空
どうも、音文学管理人の池ちゃんです。連日の猛暑で参ってしまいますが、今日もしっかりWEB記事を書いていこうと思います。今回取り上げるアーティストは「パソコン音楽クラブ」です。個人的には本当に大好きなアーティストで、いつか音文学でも紹介したいなと思っていた大切なアーティストの一人です。パソコン音楽クラブは今の時代珍しくなったハードシンセサイザーを駆使して、昔懐かしいサウンドと現代の最先端な音楽をミックスする天才的なアーティストです。
そんな天才アーティストの隠れた名曲とも言えるのが、今回ご紹介する「KICK & GO feat.林青空」という楽曲です。それでは本日もライナーノーツお付き合いください。
ちなみにではありますが、前回は超ときめき♡宣伝部さんの人気曲「こんなあたしはいかがですか」を取り上げています。宜しければ併せて読んでみてください。記事はこちら。
目次
イントロダクション:青春と疾走感の交差点
パソコン音楽クラブの「KICK & GO feat.林青空」は2022年にリリースされた楽曲であり、彼らの進化と挑戦が色濃く刻まれた一曲です。ゲストボーカルに迎えたシンガーソングライター──林青空の爽やかな声と、パソコン音楽クラブの80年代リスペクトなサウンドが混ざり合い、ノスタルジックでありながらも新しい、唯一無二の楽曲が完成しました。
この曲は、ただのシティポップでも、ただのエレクトロでもありません。まるで放課後の夕暮れ時、部活帰りの自転車のペダルを思い切り踏み込むような、青春の”加速”をそのまま音にしたかのようなエネルギーがあります。
パソコン音楽クラブの楽曲の構造と音像:懐かしさと未来のミックス
シンセサウンドとギター的音作りがされたリードシンセの有機的融合
「KICK & GO」は、パソコン音楽クラブらしいヴィンテージシンセサイザーの音色を基盤にしながらも、いつにも増して”バンド感”が強く出ています。ベースラインはタイトかつグルーヴィで、ドラムは打ち込みでありながらも人力的なニュアンスを含み、林青空のボーカルとしっかり呼応しています。
注目すべきは、途中に挿入されるリードシンセのフレーズです。リードシンセは少し歪みを帯びたもので、シンセサイザー的にギターのリードを彷彿とさせるものになっていると思います。テイストとしては甘酸っぱさを感じさせるトーンで、まるで記憶の中にある夏の日の匂いを思い出させます。このリードシンセの存在が、曲全体に人間味と感情を加えており、電子音だけでは表現しきれない”心の機微”を浮かび上がらせます。
パソコン音楽クラブの展開の妙:静と動、光と影
AメロからBメロにかけては比較的控えめで、林青空さんの素直な声がリスナーの耳元にそっと語りかけるように始まります。そしてサビは一気に開放感が広がり、言葉とメロディが風のように駆け抜けていく。そのコントラストが、まるで思春期の”内なる爆発”をそのまま音にしたような感触を生み出しています。
また、静と動というところではキックのリズムが特徴的かなと思います。イントロの連続するキックのリズムがサビでもリフレインされています。この特徴によってサビの印象をより一層リスナーの脳内に焼き付ける仕組みになっているのではないでしょうか。この小さな音楽的設計がこの曲にはたくさん散りばめられています。
KICK & GOの歌詞に込められたメッセージ:日常の中にあるドラマ
「君に伝えたいけど、うまく言えない」
歌詞の中心には、些細な日常の中にある感情の揺れや、言葉にならない想いが描かれています。「KICK & GO」というタイトルが示すように、”蹴って進む”という強い意志を感じるフレーズと「でも本当は怖いんだ」とでも言いたげな迷いが歌詞やミュージックビデオの”行間”から浮かび上がってきます。
特に、ミュージックビデオに着目するとどのシーンも曇っていたり雨が降っていたりと、情景として決してポジティブとは言えないロケーションで作品が作られています。歌詞は比較的緩い探求心のようなものが感じられますが、曇天というロケーションによって、一歩踏み出す恐怖心というものもあるのではないかと考察できます。
林青空さんのボーカルは、単にメロディをなぞるのではなく、歌詞の感情に寄り添うように緩急をつけながら丁寧に紡がれています。個人的に好きな歌い方の部分としては、
もっと君はもっと何も考えないままにただ踊ればいい
これはもっと君にもっと心と体クラクラするような音楽
引用元:Uta-Net(こちら)
の部分です。ここはまるで高校生の頃に戻ったかのような、胸の奥がぎゅっと締め付けられるような感情が歌い方に込められています。社会に接点を持って生きていると、どうしても生きにくいなと思う瞬間が私にはあります。そんなモヤモヤした気持ちを一掃してくれる歌詞がここにはこめられていると思います。
KICK & GOに込められている都市と青春、交差する風景
楽曲とミュージックビデオの背景には、都市の喧騒とそこに暮らす若者たちの等身大の葛藤があると思います。「KICK & GO」は、そんな都市生活の中で、ふと立ち止まりたくなるような瞬間を切り取りながらも、再び前へ進む力を与えてくれるような楽曲です。タイトルの”GO”という言葉には、希望と前進のエネルギーがしっかり込められており、聴き終えた後には小さな勇気が残るような感覚を与えてくれます。
パソコン音楽クラブと林青空、それぞれの個性の交差点
コラボレーションが生む化学反応
「KICK & GO」は、パソコン音楽クラブにとってはボーカルゲストを迎えたチャレンジングな試みであり、林青空さんにとってはエレクトロニカという新たなフィールドでの表現の場でもあります。上記に林青空さんソロの代表曲を出しましたが、彼女はアコースティックギターの弾き語りスタイルがデフォルトのようです。ですが、それぞれの音楽性が決してぶつかることなく、むしろ”重なり合う”ようにして一体化している点に、この楽曲の魅力があります。
林青空さんの声は、パソコン音楽クラブのシンセサウンドに”人間味”を与え、パソコン音楽クラブのビートは、林青空さんの歌声に”空間”を与えます。それぞれが補完し合いながら、新たな音楽の地平を切り拓いていると思っています。
「エモーショナル・エレクトロポップ」の最前線
この楽曲は、単に懐古的な音作りに留まらず、今を生きる若者たちの”情緒”に真正面から寄り添っているという点で、非常に現代的です。1980年代のテクスチャを借りながら、そこに2020年代の感情と生活感を流し込む。この”過去と現在のハイブリッド”こそが、パソコン音楽クラブが今シーンで支持され続ける理由でもあると考えられます。
まとめ:パソコン音楽クラブは日常に差し込む光のようなポップソング
「KICK & GO feat. 林青空」は、ただ耳に心地よいポップソングというだけではなく、聴く者の心の中に小さな物語を芽生えさせてくれる一曲です。誰もが抱える葛藤や、ほんの少しの勇気、そして進むべき道への迷い。その全てを肯定し、「それでも前に進もう」と優しく背中を押してくれる。──そんな楽曲に仕上がっているのではないでしょうか。
青春の煌めきと、都市の風景と、音楽の持つ魔法が融合した本作は、これからの季節、ふとしか瞬間に何度も聴き返したくなるような、そんな愛すべきポップソングです。

音文学管理人。TSUJIMOTO FAMILY GROUP主宰。トラックメイカーでもありながら、音文学にて文学的に音楽を分析している。年間数万分を音楽鑑賞に費やし、生粋の音楽好きである。また、辻本恭介名義で小説を執筆しており処女作「私が愛した人は秘密に満ちていました。」大反響を呼び、TSUJIMOTO FAMILY GROUPの前身団体とも言えるスタジオ辻本を旗揚げするまでに至っている。




